2021年5月に公表された「財政健全化に向けた建議」介護事業に関わる内容を確認しておきましょう
2021年05月31日
骨太方針2021(仮称)を睨み、財政制度分科会(財務省)が建議を公表
今後の社会保障改革を睨み、“国の金庫番”とも呼べる財務省が介護業界に向けた改革論点の叩きをあらためて示したのが2021年4月15日(財政制度分科会にて)。その後、議論が更に精緻化される中、国の航海羅針盤とも表現できる“骨太方針2021(仮称)”への反映を念頭・目標に、財務省から正式な建議(正式名称:財政健全化に向けた建議)が5月21日に公表されました。
今回は、同省が作成した建議資料の中で特に介護事業者に関連するであろう9個の論点について確認してまいります。
「財政健全化に向けた建議」示された論点とは
では、早速、中身に移ってまいりましょう。
ここでは本資料で示された資料を一気に紹介する形で進めてまいります。
尚、重要と思われる部分には太線を引いておりますので、併せて是非、ご確認いただければ幸いです。
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ア)利用者負担の見直し
介護保険制度の持続可能性を確保するため、利用者負担の更なる見直しといった介護保険給付範囲の見直しに取り組む必要がある。
利用者負担については、2割・3割負担の導入を進めてきたが、今般の後期高齢者医療における患者負担割合の見直しを踏まえ、令和6年度(2024年度)に開始する第9期介護保険事業計画期間からの実施に向けて、サービスの利用者負担を原則2割とすることや2割負担の対象範囲の拡大を図ることを検討していく必要がある。
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イ)介護人材確保の取組と ICT 化等による生産性向上
今後、高齢化による介護需要の増加により、生産年齢人口が減少する中で、介護人材は増加が求められる。こうした中で、新型コロナの影響による離職者の介護分野への職業転換施策を一層強化し介護人材確保のための取組を進めるとともに、サービスの質を確保しつつ、より少ない労働力でサービスが提供できるよう、配置基準の緩和等も行いながら、業務の ICT 化等による業務効率化を進めていく必要がある。
また、介護サービスの経営主体は小規模な法人が多いことを踏まえ、令和4年(2022年)6月までに施行される社会福祉連携推進法人制度の積極的な活用を促すなど、経営主体の統合・再編等による介護事業所・施設の運営効率化を促す施策もあわせて講じていく必要がある。
こうした取組は、介護職員の働きやすい職場を実現するとともに、介護職員の処遇改善の余地をもたらす。今後、我が国において就業者数の大幅な減少が見込まれる中、介護サービスを安定的に提供していくために必要不可欠な取組である。
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ウ)ケアマネジメントの在り方の見直し
居宅介護支援(ケアマネジメント)については、要介護者等が積極的にサービスを利用できるようにする観点から、利用者負担をとらない例外的取扱いがなされてきた。
しかしながら、介護保険制度創設から約20年が経ち、サービス利用が定着し、他のサービスでは利用者負担があることも踏まえれば、利用者負担を導入することは当然である。
そもそも、制度創設時、ケアプラン作成は「高齢者の自立を支援し、適切なサービスを確保するため、…そのニーズを適切に把握したうえで、ケアプランを作成し、実際のサービス利用につなぐもの」とされていたが、その趣旨にそぐわない実情も見られる。具体的には、ケアマネ(居宅介護支援)事業所の約9割が他の介護サービス事業所に併設しており、「法人・上司からの圧力により、自法人のサービス利用を求められた」という経験を見聞きしたケアマネジャーが約4割いるなど、サービス提供に公正中立性の問題が存在することが窺うかがえる。さらに、ケアマネジャーは、インフォーマルサービスだけでなく、介護保険サービスをケアプランに入れなければ報酬を受け取れないため、「介護報酬算定のため、必要のない福祉用具貸与等によりプランを作成した」ケアマネジャーが一定数いることが確認されている。
利用者が自己負担を通じてケアプランに関心を持つ仕組みとすることは、ケアマネジャーのサービスのチェックと質の向上にも資することから、令和6年度(2024年度)に開始する第9期介護保険事業計画期間から、ケアマネジメントに利用者負担を導入すべきである。また、福祉用具の貸与のみを行うケースについては報酬の引下げを行うなどサービスの内容に応じた報酬体系とすることも、あわせて令和6年度(2024年度)報酬改定において実現すべきである。
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エ)多床室の室料負担の見直し
制度創設時から、「施設介護については、在宅介護とのバランスや高齢者の自立が図られてきている状況から見て、食費等日常生活費は、利用者本人の負担とすることが考えられる」とされていた。
このため、平成 17 年度(2005 年度)に、食費と個室の居住費(室料及び光熱水費)を介護保険給付の対象外とする見直しを実施(多床室は食費と光熱水費のみ給付対象外)し、平成 27 年度(2015 年度)に、特養老人ホームの多床室の室料負担を基本サービス費から除く見直しを行った。しかしながら、介護老人保健施設・介護医療院・介護療養病床の多床室については、室料相当分が介護保険給付の基本サービス費に含まれたままとなっている。
居宅と施設の公平性を確保し、どの施設であっても公平な居住費(室料及び光熱水費)を求めていく観点から、令和6年度(2024年度)に開始する第9期介護保険事業計画期間から、給付対象となっている室料相当額について基本サービス費等から除外する見直しを行うべきである。
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オ)地域支援事業(介護予防・日常生活支援総合事業)の在り方の見直し
地域支援事業の介護予防・日常生活支援総合事業は、保険者である各市町村が高齢者の伸び率を勘案した事業費の上限内で事業を実施し、その枠内で交付金を措置する仕組みとしているが、厚生労働省が定めるガイドライン上、「一定の特殊事情」がある場合には、個別の判断により事業費が上限を超えても交付金の措置を認めることとされている。
「一定の特殊事情」の判断要件は、「費用の伸びが一時的に高くなるが、住民主体の取組等が確実に促進され費用の伸びが低減していく見込みである場合」とされているが、相当数の保険者が3年連続で上限を超過している。また、「介護予防に効果的なプログラムを新たに導入する場合」をはじめ、当該要件を充足する場合として例示されているケースも、エビデンスに基づくものとは言い難い。さらに、判断要件が例示にとどまり、例示以外の理由での申請も認めていることから、単なる事業量や利用者数の増加等を理由とした申請が相当数行われ、「一定の特殊事情」とは認めがたい申請も含めてすべての上限超過が認められている。
上限が機能せず、形骸化しており、重要な制度改革の根幹がこのような運用となっていることは看過できない問題であり、速やかに上限超過を厳しく抑制すべきである。
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カ)区分支給限度額の在り方の見直し
介護サービスは生活に密接に関連し利用に歯止めが利きにくいこと等から、制度創設時に、「高齢者は介護の必要度に応じて設定された介護給付額の範囲内で、自らの判断と選択により実際に利用したサービスについて保険給付を受けることができることとすることが適当である」とされ、要介護度ごとに区分支給限度額が設定された。
しかしながら、制度創設以降、様々な政策上の配慮を理由に、区分支給限度額の対象外に位置付けられている加算が増加している。
制度創設時に企図したように、設定された限度額の範囲内で給付を受けることを徹底すべきであり、令和6年度(2024年度)に開始する第9期介護保険事業計画期間に向けて、特に生活と密接に関連している度合が高いと考えられる、居宅における生活の継続の支援を目的とした加算をはじめ、加算の区分支給限度額の例外措置を見直すべきである。
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キ)居宅サービスについての保険者等の関与の在り方
居宅サービスについては、制度創設以来、事業所数が大きく増加している。また、居宅サービスが充実する中で、訪問介護や通所介護の1人当たり給付費が、全国平均と比べて極めて高い水準となっている地域もある。
こうした中、市町村が地域のサービス供給量をコントロールするための方策として、都道府県が指定権者である居宅サービスのうち、訪問介護・通所介護・短期入所生活介護について、市町村が、都道府県に事前協議を申し入れ、その協議結果に基づき、都道府県が指定拒否等を行う枠組み(いわゆる「市町村協議制」)がある。しかしながら、あくまで定期巡回サービス等を普及させる観点から、事前協議を申し入れ、競合する訪問介護等の一部サービスを指定拒否できることとされる扱いに留まっている。同様に、市町村が指定権者である地域密着型通所介護についても、あくまで定期巡回サービス等を普及させる観点から指定拒否ができることとされている。
一方で、定期巡回サービス等は創設から約10年以上経過し、サービスの普及が進んでいる。こうした点も踏まえ、全サービスの居宅サービス事業者及び地域密着型通所介護の指定に取り組む必要がある。定期巡回サービス等の普及の観点にかかわらず、サービス見込み量を超えた場合に、市町村が都道府県への事前協議の申し入れや指定拒否ができるようにし、保険者である市町村が実際のニーズに合わせて端的に地域のサービス供給量をコントロールできるようにすべきである。また、都道府県及び市町村がより積極的に制度を活用できるよう、国はガイドラインや取組例の発出等の支援を速やかに行うべきである。
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ク)軽度者に対する居宅療養管理指導サービス等の給付の適正化
近年、居宅療養管理指導・訪問看護・訪問リハビリテーションといった医療系の居宅系サービス費用が、総費用や要介護者数の伸びを大きく上回って増加している。
居宅療養管理指導等のサービスは、原則、「通院が困難な利用者」に対して給付することとされているが、軽度者(要支援1・2、要介護1・2)の費用の伸びが顕著な状況であり、実態として「通院が困難な利用者」以外にもサービスが提供されていないか、速やかに把握を行う必要がある。
例えば、居宅療養管理指導については、薬局の薬剤師による軽度者へのサービス費用が大きく増加している。「必要以上に居宅療養管理指導を利用するプランを作成した」ケアマネジャーが一定数いることが確認されており、「少なくとも独歩で家族・介助者等の助けを借りずに通院ができる者などは、居宅療養管理指導費は算定できない」と算定要件が明確化されたことも踏まえ、算定要件を満たす請求のみが適切に行われるようにすべきである。
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ケ)介護サービス事業者の経営状況の把握
介護及び障害福祉サービス等事業者は、法令上、サービス提供内容等の運営情報について都道府県に報告を行い、都道府県は、厚生労働省が設置する「介護サービス情報公表システム」及び「障害福祉サービス等情報検索」で報告を受けた内容を公表することとされている。このうち、障害福祉サービス等については、すべての法人について、「事業所等の財務状況」の都道府県への報告及び「障害福祉サービス等情報検索」における公表が法令上義務化されている一方で、介護サービスについては、法令上何ら規定がなく、公表が義務化されていない。
このため、介護サービスについても法令改正を行い、損益計算書をはじめとする事業報告書等の報告・公表を義務化し、介護サービス事業者の経営状況の「見える化」を速やかに推進すべきである。
また、障害福祉サービス等については、法令上、報告・公表が義務化されているにもかかわらず、「障害福祉サービス等情報検索」での財務状況の公表が低調であるため、法令に従い、財務状況を公表するように徹底すべきである。
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国策の“風”を読み取り、早め早めの準備を
以上、「財政健全化に向けた建議」より、介護事業者に直接関係のある部分から論点を幾つか抜粋してお伝えさせていただきました。本内容は国全体の方針ではなく、あくまで「財務省」という一省庁の視点に基づいた建議である、ということはしっかり認識しておく必要はあろうかと思いますが、それでも「財政健全化」が叫ばれる我が国としては、財務省の挙げる声に一定の重みがあることも否めない事実だと思われます。
事業者としては上記内容を踏まえつつ、「もしこれらの施策が実行された場合にどう対応するか?」について事前に頭を働かせておくことが重要だと言えるでしょう。
私たちも今後、引き続き、本テーマを含め、より有益な情報や事例を入手出来次第、皆様に向けて発信してまいります。
※上記内容の参照先URLはこちら
↓
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20210521/01.pdf
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