「人への重点投資」国の方針を確認しておきましょう
2022年10月31日
2022年10月5日開催の「経済財政諮問会議」で「人への重点投資」が議論の焦点に
内閣総理大臣のリーダーシップを十全に発揮することを目的とし、関連する大臣や民間有識者等で構成・開催されている「経済財政諮問会議」。国政の舵取りにおいて大変重要な位置づけとなっている本会議の中で、2022年10月5日、「人への重点投資」に関する議論が深く展開されました。
円安や物価高、デフレ景気等様々な課題が複合的に組み合わさる中、現状を打破していくために何故「人への重点投資」が不可欠となるのか?今回は、介護福祉業界の経営にも影響必至と思われる内容を幾つか抜粋し、皆様にお伝えしてまいりたいと思います。
「人への重点投資」具体的な考え方・ポイントとは
先ず、本論に入る前に、2022年10月より改定となっている最低賃金について確認してまいりましょう。加重平均は下記の通り、全国平均で961円にまで上昇しています。
下記表をご確認ください。
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改定後の最低賃金の最高額は東京都で1,072円。次いで神奈川県が1,071円、大阪府も1,023円となっています(一方で最低額は青森県、沖縄県などの東北、四国、九州地方を中心とした10県で853円)。上記の通り、基本的に毎年約3%の賃上げが今後も続くであろう中(令和2年度(2020年度)はコロナ禍だったので例外として見送り)、恐らく来年もしくは再来年には「全国平均1,000円超」という状態には到達するものと思われます。これらの土台を前提に、大きな方向性として下記整理が示されています(以下、資料2-1「「成長と分配の好循環」の起点となる人への重点投資」より抜粋。特に興味深い部分には太字)。
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物価高の下で、実質所得の減少を防ぐために、賃上げが喫緊の課題となっている。我が国の所得面を展望すると、中長期的にも賃上げが重要であることに変わりはないが、同時に、DX・GXの推進によるヘルスケア分野などでの雇用創出、労働者のリスキリングによるAI等に代替されない職種を含めた成長分野への円滑な労働移動、女性雇用の正規化、最低賃金の引上げを実現させることが不可欠である。そのため、今こそ「人への投資」に関する大胆な財政支援と官民の取組を支える制度改革を実施すべき。その際、働く意志があれば、有業・無業・雇用形態を問わず教育訓練を受けられるようにし、我が国雇用の7割にあたる中小企業の従業員を含め、その効果が行き届くようにすることが重要。それによる生産性や賃金の上昇は、分厚い中間層の拡大や消費の安定的な増加につながり、「成長と分配の好循環」の起点となる。
このスタートダッシュを図るため、次のような施策について、まずは今次総合経済対策において人への投資の総合パッケージを盛り込むとともに、中長期的に人への投資の計画的な推進を図り、今後、5年程度で持続的・安定的成長経路への移行を目指すべき。
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※DX=デジタルトランスフォーメーション。企業がAI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を用いて、業務フローの改善や新たなビジネスモデルの創出だけでなく、過去のシステムからの脱却や企業風土の変革を実現させること。
※GX=グリーントランスフォーメーション。気候変動の主な要因となっている温室効果ガスの排出量を削減しようという世界の流れを経済成長の機会ととらえ、排出削減と産業競争力向上の両立を目指す取り組みのこと。
※リスキリング=技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、新しい知識やスキルを学ぶこと。
上記文章の中で今後、我々の業界においても最も大きな影響が出てくるかもしれないのは、「成長分野への円滑な労働移動」という視点かと思われます。
というのも、我々が属する「医療・福祉」業界も本会議の中では「成長分野」だと位置づけられているからです(以下、「「成長と分配の好循環」の起点となる人への重点投資(参考資料)より抜粋)。
下記グラフをご確認ください。
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「成長分野」「非成長分野」のすみ分けの是非については各々、様々な意見が噴出するかとは思いますが、ひとまず国としては、現時点において上記のような志向を有している、ということは我々としても認識しておいた方が宜しいかと思います。
続いて、上記整理にもある「スタートダッシュを図るための優先すべき施策」としては、次の3つが示されていますので、ひとつづつ確認してまいりましょう。
先ずは「誰もが教育訓練を受けられるための財政面での大胆な支援」についてです(以下、資料2-1「「成長と分配の好循環」の起点となる人への重点投資」より抜粋(一部内容割愛)、特に興味深い部分には太字)。
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1.誰もが教育訓練を受けられるための財政面での大胆な支援
誰もが教育訓練を受けられ、最終的に個人の能力が発揮できる職につけることが重要。このため、教育訓練の社会的便益も考慮して雇用保険非受給者も含め、セーフティネットと教育訓練機会の格差是正に取り組むべきである。
● 企業に人材投資に関する情報開示を求め、それに対する企業の取組姿勢に応じてインセンティブとディスインセンティブを使い分けるなど、生産性と賃金の上昇に向けた政府の明確な意思を示すべき。
● 労働者の自発的な投資を引き出すために、例えば、個人の教育訓練投資を人的資産とみなし、その費用を複数年に渡って所得税から控除する税制上の措置など、あらゆる施策を選択肢から排除せずに必要な施策を講ずべき。
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上記「人財投資に関する情報開示」が実現すれば、本テーマに対する各社の取組・関心度合いがより可視化されることにつながることは間違いありません。経営者としては「そのような時代が到来するかもしれない」ことを念頭に、今後の経営の在り方について推敲を進める必要があるものと思われます。
続いて2点目。「官民連携による労働移動促進に向けた教育訓練の質向上と環境整備」についてです(以下、資料2-1「「成長と分配の好循環」の起点となる人への重点投資」より抜粋(一部内容割愛)、特に興味深い部分には太字)。
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2.官民連携による労働移動促進に向けた教育訓練の質向上と環境整備
教育訓練に対する個人の自主性を高め、リスキリングが着実に就業に結び付くようにするため、官民連携の下で、教育訓練が現状どう就業に結び付いているかを明らかにするとともに、企業ニーズに合うよう訓練メニューを徹底して見直すべき。
● 教育訓練や資格取得の出口として、そのスキル・資格に対して、どのような求人がありどの程度の賃金を得ることができるのかを官民連携で見える化すべき。そのために次のようなデジタルツールを積極活用し、個人が得た高いスキル・資格がより高い賃金へと着実に結び付く環境を整備すべき。
● 教育訓練給付(個人の自発的な訓練費の一部を支援)のうち、特に支援が手厚い「専門実践教育訓練給付」は、講座開設が事業者からの申請方式となっており、デジタル関連の講座が少ないなどの訓練分野の偏りや地域偏在が見られる。地域ごとに産官学の協議会を設けるなど、企業ニーズを汲み取り、地域主導で必要な講座を開設する仕組みを創設すべき。
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上記内容からすると、介護福祉分野への「労働移入」を促進すべく、他産業に従事する方々の「リスキリング」が今後、更に盛んになってくるかもしれない、ということでしょうか。我々の業界として今後、どのような対応を進めていくべきなのか?知恵の絞りどころなのかもしれません。
最後、3点目。「女性雇用の正規化の推進による様々な課題の解決」についてです(以下、資料2-1「「成長と分配の好循環」の起点となる人への重点投資」より抜粋(一部内容割愛))
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3.女性雇用の正規化の推進による様々な課題の解決
非正規労働者の正規雇用への転換が重要である中、とりわけ女性雇用の正規化は、労働力の増加、マクロの賃金上昇と男女の賃金格差是正、貧困からの脱却など、幅広い課題解決につながる。子育て支援を含め女性雇用の正規化を強力に支援すべき。
● 勤務地や勤務時間、職務などが限定される多様な正社員の広がりは、女性が正規化しやすい環境を生む。日本に合った職務給への移行に向けて、必要となる就業場所・業務の変更の範囲の明示といった労働契約関係の明確化等の環境整備を推進すべき。
● 最低賃金の引上げは、それ自体が正規・非正規間の待遇格差の是正につながる。また、社会保障について働き方に中立的な制度改革を進めていけば、将来的には、女性の就労を妨げる、いわゆる106万円の壁など就労調整の解消にも寄与する。こうした観点からも、できる限り早期に1,000円以上となること目指すべき。また、福祉等の現場で働く方々の処遇改善に向けた取組も推進すべき。
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3点目の論点については、既に介護福祉業界では他業界以上に進んでいるような印象も覚える次第です。
情報収集をタイムリーに行い、十分な思考時間の確保を
以上、今月は10月5日に開催された「経済財政諮問会議」の資料の中から特に介護福祉業界に影響が出そうな箇所を抜粋し、お伝えさせていただきました。
上記資料からも感じ取ることが出来る通り、今後、国としては毎年、各業界・企業に賃金を引き上げていくことを強く求めていくことは間違いなく、我々経営者からしてみれば、その賃金上昇を凌駕するような「より高い付加価値」を生み出す新たな仕組みやモデルを構築していくように「進化圧」が更に強まるものと思われます。
勿論、我々介護福祉業界は公定価格が中心となっている「準市場(疑似市場)」であること含め、一般市場と同様に捉え、対応していく事には少々難しい側面もあるかもしれません。しかしながら上記のような潮流が生まれている今、我々としても「私たちの業界とは関係ない話」として思考を止めてしまうのではなく、介護保険経営をより盤石なものとすると共に、「処遇改善加算に頼らずとも賃上げが実現できるような経営」も同時に追求していく姿勢も求められてくるものと思います。
「では、一体、どのような経営を進めていけばいいのだろう?」是非、そのような問いを自らに立てていく一つの契機として本情報を活用いただければ幸いです。
今後、我々も本テーマについてしっかりと追いかけ、有益な情報が見つかれば引き続きお伝えしてまいります。
※上記内容の参照先URLはこちら
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https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2022/1005/agenda.html
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