次期改正に向けた“通所介護”の現状の論点を理解しておきましょう
2023年07月31日
2024年度法改正・報酬改定に向け、各サービスごとの論点整理が開始
2024年度介護保険法改正・報酬改定の議論が開始されている“介護給付費分科会”。7月に入り、10日・24日と開催される中、先ずの第一ラウンドとして、各サービスごとの大枠の論点整理が続々と始まっています(その後、第2ラウンドとして、個別具体的な論点整理・改正方針が示唆されてくるのが恐らく秋以降になるかと思われます)。
現在の情報を早めにインプットし、(心構えも含めた)然るべき準備を行っていくためにも、今回は、コンビニエンスストアの店舗数と比較されるぐらい事業所数が多い“通所介護(地域密着型通所介護含む)”を取り上げ、主な論点をピックアップ・確認していきたいと思います。
2024年度法改正に向けた「通所介護(地域密着型通所介護含む)」主な論点・対応案とは(抜粋)
では、早速、中身を確認してまいりましょう。
まずは、「現状と課題」の整理についてです(一部抜粋。注目すべき部分には下線を引いています。以下、同じ)。
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<現状と課題>
■ 請求事業所数は、通所介護・地域密着型通所介護については、平成28 年度までは増加傾向にあったが、 その後はほぼ横ばいである。認知症対応型通所介護については、平成27 年度までは増加傾向にあったが、 その後は 減少傾向にある。
■ 受給者数は、通所介護・地域密着型通所介護については、平成31 年度まで増加傾向にあり、 その後は 横ばいである。認知症対応型通所介護については、平成 25 年度までは増加傾向にあったが、 その後は 減少傾向にある。
■ 費用額は、通所介護・地域密着型通所介護については、平成31 年度までは増加していたが、 その後は 横ばいである。認知症対応型通所介護については、平成 24 年度までは増加していたが、その後は微増減を繰り返しながら横ばいで推移し、令和2年度から微減している。
■ 要介護度別利用者数は、通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護すべてにおいて、要介護1の利用者が最も多く、次いで要介護2の利用者が多い。
■ 収支差率は、令和 3 年度決算においては、 通所介護が 1.0 %(対令和 2 年度比-2.8%) 、地域密着型通所介護が 3.4% (対令和 2 年度比-0.6%) 、認知症対応型通所介護が 4.4 %(対令和 2 年度比-4.9 %)であった。
■ 通所介護等では、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、令和2年度に「臨時的な取扱い(第12 報)」( R2.6 R3.3 )、令和3年度に「3 %加算・規模区分の特例(令和 3 年度介護報酬改定)」等を実施した。
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上記「現状と課題」を踏まえ、介護給付費分科会では次のような論点が示された次第です。
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<論点>
■ 通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護について、利用者に必要な日常生活上の機能向上並びに自立支援につながる質の高いサービスを提供する観点などから、どのような方策が考えられるか。
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抽象度が高く、いかようにも話題の展開が拡がりやすい論点提示となったわけですが、その分、自由で幅広な問題提起が行われやすかった、とも考えることができるでしょう。
中でも本会の中で話題に挙がった注目すべきポイントとしては、下記の2点ではないかと思われます。
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<問題提起1>
■ 収支差率の低下
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前述の通り、令和 3 年度(2021年度)決算においては、 通所介護が 1.0 %(対令和 2 年度(2020年度)比-2.8%) 、地域密着型通所介護が 3.4% (対令和 2 年度(2020年度)比-0.6%)となっており、特に通所介護の落ち込みが顕著な状況です。
「コロナ禍に伴う“利用控え”の拡大」「感染対策の出費増大」に加え、「光熱費やガソリン代の高騰」「(他産業での賃上げ進展に引っ張られる形での)消極的賃上げ」・・・・複合的に様々な外的要因が重なり、事業所が苦境に立たされている、と訴える声が相次ぎ、参加されている有識者からも「サービスを持続可能とするために基本報酬の適切な設定を」「経営が不安定な事業所が少なくない。様々な施策を検討すべき」との意見が続々と挙がったようです。
そのような中、「前回の改定で導入されたコロナ禍の“3%加算”などについて、効果をあらためて検証すべきではないか(≒形式は別にして、継続対応等も検討すべき?)」という意見や、「国として大規模化を推奨している中で、規模の大きな事業所の報酬を低くする仕組みは時代に逆行しているのではないか(大規模減算はもはや時代に合わなくなってきている?)」という意見は事業者としては要注目かもしれないな、と感じた次第です。
一方、この3年間は「非常事態」であったことは間違いなく、この期間で発生したマイナスの事態が今後も恒常的に続く、と考えるのは、議論の土台として如何なものか、と捉えることも出来るのではないかと思います。あくまで私見ではありますが、コロナ禍によって事業所経営が落ち込んだ側面に対する「短期目線」と、未来に向けて通所介護に期待する機能を促進させるための「中期目線」は、分けて考えるべきではないかな、と思う次第です。
続いて2点目の問題提起にうつります。
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<問題提起2>
■ 「入浴介助加算Ⅱ」算定率の低調
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2021年度の改定で見直された「入浴介助加算」。2021年度以前は一つだった「入浴介助加算(50単位/回)」について、個別計画を立てて自宅での入浴の自立を目指す「加算II」の単位数を引き上げる一方(50単位/回→55単位/回)、従来の取り組みに相当する「加算I」を引き下げる(50単位/回→40単位/回)、という改正が実施されたわけですが、実態としては加算Ⅱの算定率が11.9%(通所介護)、7.6%(地域密着型通所介護)(両数値とも介護給付費分科会調べ)と極めて低調になっており、結果的に上記問題提起1「収支差率の低下」を促進させることにもつながってしまっている、と理解せざるを得ない、というのが実態です。
「中重度の利用者は、加算IIになじみづらい。入浴にかかるコストは年々大きくなっており、今より算定しやすくするなどの検討が必要ではないか」「認知症の高齢者などは自宅での入浴の自立が難しい。この加算自体が現状に合っていない」等、本加算と実態との乖離について指摘する厳しい声も複数挙がっており、分科会としてはこれらの意見に対し、真摯に耳を傾け丁寧に議論を進めていく必要があるでしょう。
一方、上記収支差率と同様の視点として、「コロナ禍という非常事態下での改正であったことを含め、加算変更そのものに対する是非を論じるのには、もう少し時間が必要なのではないか?」という見立ても当然成立するのではないか、とも思います。この辺り、「短期」「中期」の視点を切り分けながら、秋以降の議論に期待したいところです。
上記2点以外においても、昨年度の国の調査結果を踏まえた上での各種加算の見直しやLIFEの更なる拡充、認知症への対応強化や社会参加活動の促進(要介護高齢者の有償ボランティア活動等)等々、検討課題として挙げられる論点はまだまだ沢山あろうかと思います。この数か月間は引き続き、それらの議論をタイムリーに追いかけることが必要となりそうです。
議論のプロセスから関心を持って情報を追いかけておくことが大切
以上、今回は通所介護1点に絞り、分科会で挙がった大枠の論点について確認・言及させていただきました。この他にも全サービスにおいて現状と課題、及び論点の提示が続々と開始されていますので、関連サービスについては是非、早めに目を通されておかれることをおススメします。
介護経営者としては「こうなるかもしれない」という最終的な結論だけでなく、「何故このような内容に着地する可能性が高いのか?」という、言葉の裏に潜む意図や背景を温度感も含めて理解する姿勢がますます重要となってくるでしょう(その意味からも是非、介護給付費分科会で提示されている資料も併せてご確認下さい)。
また、早め早めに情報をキャッチアップし、頭の中で“PDCA”を回しておく事も必要です。「もし上記が実行された場合、自社にはどのような影響が出てくるか?」「それら想定される影響に対し、どのような対応を行う事が最適なのか?」幹部育成の視点も含め、そのような議論を社内で始めていかれる事を是非、おススメする次第です。
私たちも今後、有益な情報を入手出来次第、どんどん情報を発信してまいります。
※上記内容の参照先URLはこちら
↓
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126698.html
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