「循環型高齢者保健戦略」の概要を確認しておきましょう
2024年09月30日
国際的視座に基づいたビジョンを厚生労働省が公表
「国民生活の保障及び向上を図り、並びに経済の発展に寄与するため、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進並びに労働条件その他の労働者の働く環境の整備及び職業の確保を図ること」という使命(厚生労働省設置法より)、及び「国際保健の取組の推進は、国際貢献のみならず、国内の課題解決にもつながり、国益に寄与するものである」という視座に基づき、2024年8月26日に厚生労働省により上梓された「国際保健ビジョン」。
ほとんどは医療をテーマとしたアジェンダで構成されている本ビジョンですが、その中でも「循環型高齢者保健戦略(以下、「本戦略」という)」のいうタイトルのもと記載されている内容は、福祉事業者にとって今後、大きな影響を及ぼす可能性が高いのではないか、と感じます。
今回はこの「循環型高齢者保健戦略」の内容を抜粋し、皆様にお届けさせていただきたく思います。
「循環型高齢者保健戦略」記載されている内容とは
では、早速、中身に移ってまいりましょう。
先ずは本戦略の趣旨についてです(特に重要、或いは興味深いと思われる箇所については太字としています。以下、同じ)。
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1. 趣旨
高齢化は世界共通の課題であり、特に、これから本格的な高齢化に直面していくアジア諸国を中心に、持続可能な高齢者保健システムの確立と強化が求められる。日本は世界に先駆けて、介護保険制度の下で質の高い介護サービスの提供体制を構築するとともに、介護福祉士を始めとする介護職員のキャリアパスを作り上げてきた。足下では、将来にわたり必要な介護サービスを安心して受けられるよう、担い手を確保することが重要な課題となっている。
アジア諸国との間で連携を強化し、高齢化に伴う諸課題に共に取り組むため、国際標準化機構( ISO )において介護の国際規格に関する検討が進められていることも一つの契機として活かしながら、高齢者保健分野に関する様々な国際的な議論に積極的に貢献することを通じて、我が国の質の高い介護サービスや人材養成システム等に関する豊富な知見の共有を図る。こうした取組を通じて介護分野における日本の国際的な信頼を高めることにより、日本の介護を学びたいという外国人介護人材を増やし、国内における介護サービスの担い手の確保につなげ、さらに、日本の介護を学んだ 外国人介護人材が母国で日本の介護を紹介するといった、高齢者保健分野における好循環を生み出すシステムを構築する。その中で、外国人介護人材の確保については、海外現地への働きかけや日本での定着支援に戦略的に取り組むなど、質の確保と量の確保の両面から取組を強化する。
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続いてはその具体的内容についてです。
大きくは「介護サービス等に関する知見の共有」「海外現地への働きかけの強化」「日本での定着支援の推進」の3つに分かれています。
先ずは一つ目、「介護サービス等に関する知見の共有」についてです。
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「介護サービス等に関する知見の共有」
・ 現在、国際標準化機構( ISO )において介護の国際規格の策定に向けた検討が進められており、国内においても、学識者・関係団体等から構成される民間の委員会等において議論が行われている。こうした議論をはじめ、高齢者保健分野に関して様々な枠組で行われる国際的な議論に積極的に貢献していくことを通じて、我が国の質の高い介護サービス等に関する知見の共有を図るとともに、認知症ケアをはじめとした我が国の質の高い介護サービス等に対する国際的な理解につなげる。
・ また、高齢化が進行する中にあって、近年、我が国においては年齢階級別要介護認定率に低下傾向が見られることを踏まえ、このような傾向と、地域支援事業などを通じて我が国が進めてきた健康づくり・介護予防の取組等との関係性について、更なるエビデンスの収集・整理を行いつつ、健康寿命の延伸と介護費用との関係性についても精査を行い、こうした知見も含めて海外に発信することにより、各国における活力ある健康長寿社会の実現に貢献する。
・ これらの取組を通じて、介護分野における日本の国際的な信頼を高め、我が国の介護を学びたいという外国 人介護人材の受入れや、国内の介護事業者の国際展開につなげることを目指す。
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続いて2つ目、「海外現地への働きかけの強化」についてです。
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「海外現地への働きかけの強化」
・ 政府機関、地方自治体、学識経験者、介護事業者等有識者の参画を得て、外国人介護人材の獲得力強化に関する包括的・戦略的な対応の方向性を検討する。その際、各国の事情に応じて、日本への送出しルートを確立することとし、特に、送出しルートの確立が急務であるインド等については、関係者のネットワーキングを進めつつ課題等を整理するなど、経済発展や地域・対象層等に応じた、アジア諸国への募集アプローチを検討する。
※例えば、ベトナム・フィリピンは地方部で募集するなど工夫が必要であり、ミャンマーは日本に親和的な環境から増加傾向にある。ネパールやスリランカでも介護福祉士を目指す留学生や特定技能での受入れが見込まれるほか、インドネシアやインドは人口規模等から今後の受入れ拡大が期待される。
・ アジア諸国でのニーズ等を踏まえ、特定技能試験を順次拡充してきたところ、引き続き、試験地や試験会場について検討するとともに、現地説明会を開催し介護分野の就労機会や日本の介護の考え方を積極的にPRするなど情報発信を強化する。
・ 外国人介護人材の確保のため、海外現地の教育機関等との関係構築・連携強化や、現地説明会による採用・広報活動など、海外展開に積極的に取り組む介護事業者を支援する。また、JICAが実施するインドネシアにおける介護人材能力強化プロジェクトについて、日本への送出し拡大も念頭に、厚生労働省から専門家を派遣し、公的訓練校での介護プログラム・教材の作成や、教員の育成を支援する。
・ 日本で働く外国人介護労働者の帰国後のネットワーク作りを進め、やむを得ず帰国した方が現地の介護産業で就労するなどの帰国後に係るキャリアを見える化することで、日本での就労インセンティブに繋げていく。また、帰国後の活躍の場や日本人職員の海外の介護施設への派遣にも繋がるよう、日本の介護技術を標準化してアジア諸国で普及する取組等の支援を検討するとともに、資格の相互承認も含めた課題等を整理する。
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最後に3つ目、「日本での定着支援の推進」についてです。
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「日本での定着支援の推進」
・ 外国人介護人材が日本で安心して働けるよう、受入事業者による就労・生活環境の整備を支援するとともに、多様な業務を経験し、キャリアアップに繋がるようにすることで、日本で長期間就労する魅力の向上を図る。例えば、訪問系サービスへの従事に当たって受入事業者にキャリアアップ計画の作成を求めることや、初任者研修、実務者研修を受講しやすい環境整備など、介護現場の多様なキャリアパスを示しつつ、キャリアアップできるよう取組を進める。また、技能実習制度等で来日する外国人が、マイナ保険証によるより良い医療の提供などのメリットを早期に享受できるよう、監理団体などの関係機関による、入国後速やかなマイナンバーカードの取得支援を徹底する。
・ 介護福祉士国家資格の取得に向けて、全国での試験対策講座の開催など学習支援を行う。また、国家試験を受験しやすい環境の整備として、就労と学習の両立を図り、誰もがキャリアアップを目指すことができるよう、介護福祉士国家試験のパート合格の導入を検討する。
・ 国内の介護事業者に対し、人材獲得のために積極的に海外展開を行う事業者の事例や、新興国からの外国人介護人材の受入れのイメージを持てるよう情報発信を行う。
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「ギリギリ行き詰ってからの対応」ではなく、「余裕がある時からの取組(人財投資)」が重要
以上、特に介護事業者にとって関係が深くなるであろう内容をピックアップしてお届けいたしました。外国人介護人材の採用に取り組んでいる事業者の数は全国的に見てもまだまだ少ない状況ですが、未来を見据えた場合、多くの事業者にとっては「避けて通ることが出来ない関心事」ではないか、と思われます。
その意味でも国の動向、及び取り組む事業者に対する支援内容をタイムリーに把握すると共に、「ギリギリ息詰まってから取り組み始める」というよりも、「組織的に多少余裕がある時からしっかりとした取り組みを開始し、確保・定着のノウハウを積み上げておく(≒人財投資を行う)」ことを強くお勧めする次第です。
我々も今後、引き続き、有益な情報や事例を入手出来次第、皆様に向けて発信してまいります。
※引用元資料はこちら
↓
国際保健ビジョン
https://www.mhlw.go.jp/content/10501000/001294429.pdf
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