“骨太の方針2015”が示した介護業界の未来
2015年07月27日
国の方針を示す「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太の方針2015)」が公開
先月のニュースレターでは平成27年6月1日にまとめられた報告書「財政健全化計画等に関する建議」について触れさせていただきましたが、それらを踏まえた形で先月末の6月30日に、「経済財政運営と改革の基本方針2015~経済再生なくして財政健全化なし~」いわゆる、「骨太の方針2015」が公表されました。
内閣府が主導で公開された本報告書は、今後の国の運営に大きな影響を及ぼしてくることは間違いなく、介護事業者にとっても要注目の情報であることは言うまでもありません。
今回のニュースレターでは、同報告書の中から、介護事業の経営に影響を及ぼすであろう内容をピックアップして皆様にお伝えしたいと思います。
社会保障分野に関する示唆の数々
介護経営に大きく影響を及ぼす可能性が高い文言として、同報告書には大きく以下の内容が示されています(各項目のp数は、報告書の中に示されたp数です)。
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【その1:基本的な考え方(30p)】
社会保障分野については、(以下割愛)増大していく公的社会保障の給付について、効率化・重点化のための改革を行い、経済再生の取組による社会保障財源の増収と併せ、少なくとも、社会保障における次世代への負担の先送りを拡大させないようにする。
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【その2:時間軸(30p)】
社会保障・税一体改革を確実に進めるとともに、団塊の世代が後期高齢者になり始める2020 年代初め以降の姿も見据えつつ、主要な改革については2018 年度(平成30 年度)までの集中改革期間中に集中的に取組を進める。検討実施に係る改革工程を速やかに具体化していく中で、予断を持たずに検討する。平成27 年度からできる限り速やかに取組を進める。
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→【その1】【その2】を合わせて読み解くと、「介護分野においては、次回法改正(2018年度)において、集中的に改革を行う」と理解出来ます。次回は、2015年以上に大幅な抜本改革が進む可能性があると考えておく必要がありそうです。
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【その3:医療・介護提供体制の適正化(31p)】
・慢性期の医療・介護ニーズに対応するサービス提供体制について、医療の内容に応じた制度上の見直しを速やかに検討するとともに、医療・介護を通じた居住に係る費用負担の公平化について検討を行う。
・都市・地方それぞれの特性を踏まえ、在宅や介護施設等における看取りも含めて対応できる地域包括ケアシステムを構築する。
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→いわゆる「療養病床問題」を2018年度までに決着させる意向があらためて示された、と理解して問題ないと思います。また、今までの議論は「介護療養病床」が中心でしたが、今後は「医療療養病床」に関しても大きなメスが入る可能性も高いと言えそうです。
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【その4:公的サービスの産業化(32p)】
・社会保障に関連する多様な公的保険外サービスの産業化を促進する観点から、(以下割愛)民間事業者による地域包括ケアを支える生活関連サービスの供給促進等に取り組む。
・介護サービスについて、人材の資質の向上を進めるとともに、事業経営の規模の拡大やICT・介護ロボットの活用等により、介護の生産性向上を推進する。
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→宅配事業者や新聞配達事業者等が見守りの役割を担う等、「介護事業者以外の方々をも巻き込んだ地域包括ケアシステムの構築」が進みつつありますが、それらの事例を踏まえ、様々な社会資源をより有機的に結合させていくアイデア・企画を今後、国としてより促進させていく意向が反映された文章となっています。その意味からも、独力・或いは他社(同業種・異業種含む)との連携の中、介護事業者としても「多様な介護保険外サービスの産業化」に積極的に取り組む戦略は有効だと考えられるでしょう。また、後段の「生産性向上」は、労働力不足に悩む介護事業者にとって、今後、真剣に捉えなければならないテーマになってくると言えそうです。今後、介護ロボットや新たなITツール等が市場に出てくると思われますが、是非、積極的な活用策を検討していきましょう。
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【その5:負担能力に応じた公平な負担、給付の適正化(33p)】
・次期介護保険制度改革に向けて、高齢者の有する能力に応じ自立した生活を目指すという制度の趣旨や制度改正の施行状況を踏まえつつ、軽度者に対する生活援助サービス・福祉用具貸与等やその他の給付について、給付の見直しや地域支援事業への移行を含め検討を行う。
・社会保障制度の持続可能性を中長期的に高めるとともに、世代間・世代内での負担の公平を図り、負担能力に応じた負担を求める観点から、(以下割愛)介護保険における高額介護サービス費制度や利用者負担の在り方等について、制度改正の施行状況も踏まえつつ、検討を行う。また、現役被用者の報酬水準に応じた保険料負担の公平を図る。あわせて、医療保険、介護保険ともに、マイナンバーを活用すること等により、金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担を求める仕組みについて、実施上の課題を整理しつつ、検討する。
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→過去からの議論は勿論、本報告書においても「軽度者に対する生活援助サービス・福祉用具貸与」と明言されている事からも、本内容は次回の法改正タイミングにおいて保険外サービスに移行される可能性が高いと考えておいた方が良いでしょう。加えて、地域支援事業に移行された、要支援者向けの訪問介護・通所介護についても今後、保険外化の議論が進む可能性も高いと思われます(本報告書には記載されていませんし、次回の法改正タイミングかどうかについてもまだよく見えてきませんが)。また、後段についても、「“公平”の視点から、持っている人には相応の負担をしてもらう」という姿勢は今後、より強化されてくることは間違いのない事実です。私見ながら、こちらも次の法改正のタイミングかどうかは分かりかねますが、恐らく、介護保険においては、将来においては全ての対象者が1割負担→2割負担に上がる可能性も高いと考えておいた方が良いでしょう。
早め早めに思考を動かしておくことが重要
本報告書はあくまでも大方針レベルのものであり、細かな内容は今後、主管の省庁が中心となってどんどん具体化されてくるものと思いますが、前述の通り、「国としての正式な意向が示された」という意味において、我々としてしっかり注視すべき内容・情報であることについては、間違いのない事実です。
上記が実行された場合、経営面で大きな変化を余儀なくされる介護事業者も恐らく出てくるものと思われます。
その意味では、「もし実行されれば自社の経営にどんな影響が出てくるのだろうか?」「それらに対し、我々はどう対応すればよいのだろう?」等々について、早めに思考を回転させておく必要があると言えそうです。
我々としても、更なる情報の入手や有効な打ち手・アイデアが見え次第、皆様にどんどん情報を発信してまいります。
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