公正取引委員会から出た「介護分野に関する調査報告書」の内容とは
2016年09月30日
28年9月5日「介護分野に関する調査報告書」が発表。その経緯とは。
公正取引委員会は9月5日、事業者の新規参入や創意工夫発揮の環境整備により、競争を促進し、消費者に良質な商品・サービスを提供、その比較・選択により商品・サービスの質の更なる改善を促すことを目指すとした「介護分野に関する調査報告書」を発表しました。このような競争政策の観点から介護分野の考え方を整理することは、介護サービスの供給量の増加や質の向上が図られることにつながると考えられるとし、次の4つの視点が提示されています。
[1] 多様な事業者の新規参入が可能となる環境づくり
[2] 事業者が公平な条件の下で競争できる環境づくり
[3] 事業者の創意工夫が発揮され得る環境づくり
[4] 利用者の選択が適切に行われ得る環境づくり
今まで介護分野についてはほぼ何も触れてこなかった「公正取引委員会」が敢えてこのような調査報告を出してきたことを考えると、本報告書の内容は2018年法改正含め、少なからず今後の介護経営に影響を及ぼしてくる、と考えるのが自然でしょう。
※最下部の「資料1」をご覧ください
そのような前提認識のもと、今回のニュースレターでは、特に詳しくお伝えしたいと考える2点の内容について取り上げてまいります。
最初は「特別養護老人ホーム」に関するものです。これは現在、主に社会福祉法人が運営していますが、ここに風穴をあけることになります。
1. 参入規制 多様な事業者の新規参入が可能となる環境の整備
先ずは整理資料にご注目下さい。
※最下部の「資料2」をご覧ください
上記資料にもある通り、本テーマに関する公正取引委員会からの主な指摘事項は次の通りとなっています。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1) 医療法人,株式会社等が社会福祉法人と対等の立場で参入できるようにすることが望ましい(あわせて,補助制度・税制等に関するイコールフッティングについても要検討。)
2) 自治体は,自らが設置する特別養護老人ホームにおいて,株式会社等を指定管理者とするように,指定管理者制度を積極的に活用していくべき。
3) 自治体は,総量規制を適切に運用すべき。あわせて,具体的な事業者の選定に当たっては,選定基準を明確化し,客観的な指標に基づいて選定を行うなど,恣意性の排除を図るとともに,選定の透明性を図るべき。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
特に上記 1)2)の指摘について、「株式会社等が社会福祉法人と対等の立場で参入できるようになることにより、確かに競争原理が働き、サービスの質の向上等が促進される」という期待効果は確かに一理あるかもしれません。しかし、一方では、「営利法人という特性を持った法人が、果たしてセーフティネット機能を全うできるのか(=儲からなくなったらすぐに閉鎖してしまうのではないか)」というリスクも当然ながら潜んでいます。このあたりの論点について今後、どのように整合性を図っていくのかを注視する必要がありそうです。
もうひとつは、介護サービス・価格の弾力化、「混合介護の弾力化」についてとり上げます。
2. 介護サービス・価格の弾力化(混合介護の弾力化)
事業者の創意工夫が発揮され得る環境の整備
※最下部の「資料3」をご覧ください
本テーマに関する公正取引委員会からの主な指摘事項は次の通りとなっています。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1) 「混合介護の弾力化」を認めることにより、事業者の創意工夫を促し、サービスの多様化を図ることが望ましい。
2) その「混合介護の弾力化」。具体例としては、
◎保険内サービスの提供時間内に利用者の食事の支度に併せて、帰宅が遅くなる同居家族の食事の支度も行うことで、低料金かつ効率的にサービスを提供できるようになる可能性がある。
◎利用者が特定の訪問介護員によるサービスを希望する場合に、指名料を徴収したうえで派遣することが可能となる。
3) 国は自治体により事業者の創意工夫を妨げるような運用が行われることがないよう、制度の解釈を明確化し、事業者の予見可能性や透明性を高めるべき。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「混合介護」に関して、「公正取引委員会」のここでの論点は、「事業者の創意工夫を促し、サービスの多様化を図る」という視点で切り込まれています。一方で介護報酬のプラス改定要素が難しくなるなか(内閣府「経済財政運営と改革の基本方針」等)、保険サービスを補完する保険外サービスへの取組みとして着目されているところもあります。28年3月には「保険外サービス活用ガイドブック」として厚生労働省、農林水産省、経済産業省が3省併記でまとめた報告書も発表されました。こうした流れを加味すると、今回ここでとり上げられた事は、今後の「混合介護」のあり方に大きな影響を与えそうです。
今後の影響から考える
さらに政府はこの後の9月12日「第1回未来投資会議」を開催しています。ここでの議論でも「介護は保険外サービスとの組み合わせが必要」との見解を示し、さらに「混合介護」を前進させるべく具体化へ向けた検討に着手しています。
こうした政府の動向をみても、「混合介護」取組みの流れは、ますますスピード感を増すことが予想されます。このことは、介護事業者にあっては、制度内のいわば「均一のサービス」から「独自のサービス」を提供することが求められ、結果、事業も多様化してくることになりそうです。
しかしながら、ここで注意したいのは「では保険サービスは必要ないのか」という視点です。「保険外サービスへの取組み」の重要性はいいとしても、それが強調されるあまり「保険内サービス」、つまり従来の基本的な「介護サービス」が軽視されてはいけません。統計でも明らかなように多くの地域で高齢者人口はこれからも増えることが予想されています。そのなかで必要なサービスを考えたとき、「保険内サービス」はやはり重要な介護サービスであることには変わりはないでしょう。
最適なサービス提供をしていくために、「保険内、保険外」といういわば「サービス供給者サイド」からの視点だけでなく「利用者サイド」の視点をもつことも重要ではないでしょうか。
※「(平成28年9月5日)介護分野に関する調査報告書について」資料の原本をご覧になりたい方はこちら↓
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/sep/160905_1.html
|